タリウム(thallium)
原子番号 81 原子量 204.383
m.p. 304℃ b.p. 1457℃
密度 11.85(g/cm3)
単体はナイフで切れるくらいやわらかい銀白色の金属。1861年、イギリスの化学者W. Crookesが行った分光分析によって発見された。タリウムの発光スペクトルが緑色であることから、ギリシア語で「緑の小枝」を意味する"thallos"が元素名の由来となっている。Crookesと同時期にフランスのC. A. Lamyもこの元素を発見している。
安定同位体は203Tl(29.524 %)と205Tl(70.476 %)が存在する。乾燥した空気中では安定だが、湿った空気中では表面に酸化被膜を生じるため石油中に保存する。酸化数は+1と+3が安定で、他の13族元素とは異なり酸化数は+3よりも+1のほうが安定である。炎色反応は緑色。水銀との合金は融点が-60 ℃程度であり、水銀の融点(-38.9 ℃)よりも低い。そのため、極寒地用の温度計などに使用される。
タリウムは毒性が高く、硫酸塩は殺鼠剤や殺虫剤として利用されたが、現在ではあまり使われない。耐食性合金や易融合金に利用される他、蛍光物質添加剤やガラス添加剤としても利用される。また、201Tlは心筋の細胞膜やがん細胞に取り込まれやすいため、造影剤として利用される。このときに使用されるタリウムはごく微量である。
タリウム化合物は無味、無臭でたびたび毒殺などにも使われる。体内に入ったタリウムはカリウムと置き換わることで中毒作用を起こし、腹痛や脱毛、視力低下などを引き起こす。2005年には実の母親にタリウムを飲ませ殺害しようとした娘が逮捕される事件が起こった。また、2014年12月には名古屋大学理学部1年の女子学生が名古屋市内で高齢女性を絞殺する事件が起こったが、後に彼女は高校2年生のときに同級生2人に硫酸タリウムを飲ませていたことが判明した。彼女は2005年の事件をきっかけにタリウムに関心をもったという。この他にも過去にはタリウムを用いた事件が何度か起こっている。