炭素(carbon)
原子番号 6 原子量 12.0107
m.p. 3550℃ (ダイヤモンド)
b.p. 4800℃ (ダイヤモンド, 昇華点)
密度 3.513(g/cm3) (ダイヤモンド)
木炭やダイヤモンドは古くから知られていた。元素であると認識されたのは18世紀後半。元素名はA. L. Lavoisierによって名付けられた。ラテン語で「木炭」を意味する"carbo"が由来となっている。酸化数は+2、+4をとることが多く、+4が安定。ダイヤモンドや黒鉛、無定形炭素、フラーレン、カーボンナノチューブなどの同素体が知られている。炭素化合物は有機化合物として生命には欠かせない。炭化ケイ素や炭化タングステンは非常に硬く、研磨剤として利用される。12Cは1961年から原子量の基準とされている。放射性同位体の14Cは半減期が約5730年で、年代測定に用いられる。
ダイヤモンド(diamond)
無色透明の固体。不純物を含むと着色する。金剛石、ダイヤとも呼ばれる。多数の炭素原子が共有結合でつながった構造を持つ。天然の物質の中で最も硬く、モース硬度は10(基準)。光の屈折率が大きい。電気伝導性はないが、熱の良導体である。化学的にはきわめて安定だが、加熱すると600~800℃で二酸化炭素CO2となってしまう。研磨剤や切削剤としての利用が多い。不純物が少なく大きなものは宝石として用いられる。4月の誕生石。人工ダイヤモンドは1955年、アメリカのジェネラル・エレクトロニクス(GE)社によってつくられた。高温・高圧条件のもとで微小なダイヤモンドを得ることに成功したのである。
黒鉛(graphite)
金属光沢をもつ黒色の固体。グラファイトとも呼ばれる。鉱物は石墨と呼ばれる。密度は2.26(g/cm3)。炭素原子が六角形の網目面構造をとり、この層がファンデルワールス力により積み重なった構造を持つ。化学的に安定だが、加熱すると二酸化炭素となる。平面間の結合は弱いため、はがれやすい。また、平面間にはカリウム原子などを含むことができ、層間化合物をつくる。平面に平行な方向には自由電子により電気伝導性を示すが、垂直な方向では電気抵抗が大きい。グラファイトは「書く」という意味のギリシア語に由来する。電極や耐火るつぼ、鉛筆の芯などに利用される。
グラフェン(graphene)
黒鉛の層状構造を構成する1枚の層をグラフェンと呼ぶ。厚みは炭素原子1個分。2004年、A. GeimとK. Novoselovが黒鉛の表面に粘着テープを張り付け、剥がすことによりグラフェンを単離した。この功績により二人は2010年にノーベル物理学賞を受賞している。電気伝導性や熱伝導性は非常に高い。軽く透明で、強度も高い。デバイス材料などとしての利用が期待されている。
無定形炭素(amorphous carbon)
黒色の固体。はっきりとした結晶構造を示さない炭素の総称。木炭や活性炭、コークス、すす、カーボンブラックなどがある。密度は1.8~2.1(g/cm3)で黒鉛より小さい。多孔質である活性炭は表面積が大きく、においや色素をよく吸収する。そのため、脱臭剤や脱色剤として利用される。カーボンブラックはタイヤなどでのゴムの増強剤として用いられる他、印刷インキや黒色顔料、カーボン紙などに利用される。
フラーレン(fullerene)
茶色~黒色の固体。球状の炭素分子でC60やC70などが存在する。その形がBuckminster Fullerの設計したモントリオール万博のドーム型建築物に似ていたことからフラーレンと名付けられた。C60のものは特にバックミンスターフラーレンと呼ばれる。C60は切頂二十面体型(サッカーボール型)構造で、20個の6員環と12個の5員環からなる。直径は約0.7nm。1970年には大澤映二によってC60の存在が予測されていた。1985年、R. Smalley、H. Kroto、R. Curlが黒鉛にレーザーを照射することで合成した。この功績により三人は1996年にノーベル化学賞を受賞している。有機溶媒に可溶。フラーレンの中にアルカリ金属などの原子を閉じ込めたものも合成されている。これらの中には高温で超伝導を示すものも発見されているため、次世代の材料として注目されている。
カーボンナノチューブ(carbon nanotube)
黒色の固体。六員環のグラフェンシートが単層、または多層に重なって筒状となっている構造を持ち、末端はフラーレンのように閉じている。1991年、NEC基礎研究所の飯島澄男がフラーレンの観察中に発見した。有機溶媒には溶けにくい。カーボンナノチューブはその構造によって電気伝導性が変化し、導体のものも半導体のものもある。また、炭素原子同士の結合は非常に強く、強度が大きい。弾力性にも優れている。空洞があるため分子や原子などを取り入れることができ、様々な性能を示す。半導体素子などでの活躍が期待されている。1998年には末端が円錐状に閉じた構造のカーボンナノホーンも発見されている。